聴覚障害を疑似体験するには?

聴覚障害体験をする前に考えること

障害に関心を持つきっかけがなければ始まらない

皆さんも小学生の頃に「障害体験」をしたことが一度はあるはずです。よく見えないゴーグルをつけたり、おもりを付けて歩いたり、階段を登ったり降りたりするあれです。

それ自体は「ご年配の方や障害者の方を手助けしましょう」とか「人の気持ちになりましょう」という道徳体験としてはとても良いと思います。

でも、「障害」を体験するという意味では、実は中高生になってから改めて障害体験について考える機会があると良いんではないかと思います

「障害とは何か?」という問いを考えられる年齢になってから、自分なりに哲学を深めていく中で、障害を感じてもらう体験を増やすこと、押し付けがましくなく自然に「異なる人」を知るにはやはり障害者と接する機会を増やすしかないと思うのです。

これからの時代、「健常者が障害について学ぶ機会を奪ってはならない」と考えるのはどうでしょうか。社会的に自分たちと異なる人について、一瞬でも「そういう人がいる」ということを感じられることこそ教育になるとおもうのです。

「聴覚障害」というものの本質を伝えるには?

物理的に聞こえない状態をつくることで聴覚障害体験をすることは難しいことではありません。ただ、それだけでは聴覚障害者の置かれている状況を理解することはできないというのもまた事実です。

聴覚障害の疑似体験をする際に必要なステップが3つあると思います。

  1. 物理的に聞こえにくい状況をつくる
  2. 聴覚障害者の立場を自分が感じられる状況をつくる
  3. 人が聴覚障害者だったらどうすればいいか考える状況をつくる

聴覚障害の疑似体験については様々な教育機関や支援組織が行っていますし、その報告書など読むことができます。たとえば「熊本県ろう者福祉協会」の広報誌にこのような記事があります。

疑似体験が成功するか否かは、聴覚障害に対する配慮のない環境をその場にうまくつくりだせるかどうかにかかっています。
聴覚障害は人と人という環境が障害をつくるのです。グループを作り、その中に1人か2人の疑似体験者を置き、かつその人を無視して、きこえる人だけで楽しく音声で語り合う、笑い合う、ときには疑似体験者の話題で盛り上がるという過酷な環境をつくることが疑似体験の成功の秘訣です。

【疑似体験】聴覚障害者の疑似体験 インカムくまもと 第167号

聴覚障害は一言では言えないくらいもどかしい障害です。聴覚障害は単に「聞こえない」というだけでなく、人間が他人とつながるのに頻繁につかうことばも奪うのです。

親ともうまく通じ合えない
友達とも楽しめない
恋人とも話し合えない
上司の考えもわからない

身近な人から見知らぬ人まで日常の社会生活のあらゆる場面で孤独にならざるを得ないのです。

義務教育までならなんとか特別支援学校(ろう学校)など、聴覚障害に合わせた環境で友達を作ったり、社会生活や教育を受けることができますが、社会に出てからはその他大勢の健常者と働くことになりコミュニケーションが前提とされると非常に苦労します。

指示が聞こえないことからできる業務は限られていますし、過去のいじめなどの経験から「人に悪口をいわれているのでは?」と過剰に気にしすぎてしまったり、ひそひそ話をされているように感じる聴覚障害者は少なくないと思います。

【聴覚障害者のあるあるトーク】Vol.12 みんなから健聴者への質問

なので、聴覚障害を模擬体験する時には「聞こえない」というだけでなく、「他の人との輪に入れない」という経験も伴っていることがやはり一番当事者に近い感覚を体験できるとは思います。

障害を面白く体験することができないかと思う

NHKで7年以上も続いている番組に障害者バラエティ「バリバラ」という番組があります。

ここでは寝たきりの障害者コメディアンである「あそどっぐ」を修学旅行につれていくという企画で、目的地まで周囲の人に車椅子を動かしてもらうという場面がありました。

これだけ聞くと「なんて残酷な」と思う方もいるかも知れませんが、実はそうした企画で障害者自身が輝いたりするそうです。

こちらが優しすぎると何も起きない。何でもかんでもサポート体制万全にしても何も起きないし、テレビ的ではないし、そこのところはバラエティとしての何か一工夫を考える。そういう意地悪なことをやることで、結果、彼らがキラキラ輝いてくれるんです。

仕事でも学校でもその場に障害者が居るということを、みんなが理解してできる範囲でお互いカバーし合うことができれば、はれものを扱うようなことにはならないはずです。

そのくらい活躍してもらうには、周りの人が優しすぎると力が出てこない。障害をもつ人達の良さを出す余地も与えないんです。一方で、障害があることを良しとして表面的なやさしさで覆い隠してしまうことに甘んじてしまう当事者もいます。

バリバラではこの健常者と障害者の見えない壁を、障害のある当事者でありながら主体的に自分の強みを活かして活動されている方のちからを得てうまく壊していったと思いました。

確かに、聴覚障害の孤独さを強調することも本質に迫るためには必要かもしれませんが、その側面を強調しすぎることも決して今を生きる聴覚障害者のためになっているわけではないように思うのです。

むしろ聴覚障害者と社会生活を送るにあたりどうして良いのか分からない健聴者を悩ませることになるのではないでしょうか。だからこそまずは、聴覚障害というものに関心を持ってもらうことも大事だと思います。そのためには聴覚障害の疑似体験も真面目にやりすぎるとつまらないはずです。

他人の気持ちは決してわかることができないのですから、だからこそ疑似体験という仮想の機会を活かして興味を持ってもらい、体験者の意識の何処かにコミュニケーションや障害者問題というところに関心のフックがかかるという事に意味があるように思います。

もし私達が聴覚障害体験を企画するのであれば、単純に聴覚障害者を体験するということのリアリティー追求していくことを目的にするのではなく、その先の人生をより楽しく生きるための「人との接し方、共感のしかた」まで考えたり、話し合いの空間を残してあげるようなプログラムを考えたいなあと思っています。ぜひ面白く明るくなるアイデアいつでもお聞かせください。

聴覚障害を体験するためにみみなびができること

物理的な聴覚障害の疑似体験をするには?

これまで長々と聴覚障害体験についてその背景や聴覚障害を体験することの難しさについて語ってきましたが、何事もやらないよりはやってみたほうがいいです。

シンプルに物理的に聞こえない状態を体験することはすぐできます。

まず、「音が聞こえない状態をつくる」というのが一番簡単なのですが、これは100円均一で耳栓を買ってきて耳に入れて日常生活を送ってみるだけで簡単な「軽度難聴」が体験できます。

ただ、通常の聴力がある人は耳栓を使っても-20dBほどにしかなりません。60dBで話されると、-20dBされても40dBはあるのである程度聞こえてしまうので、耳栓にノイズを流したヘッドホンを付けた状態まで準備しないと「全く聞こえない状態」にはなりません。

こちらの論文では学生を対象に聴覚障害の疑似体験を実施しています。ここではウエイトノイズ(周波数特性がA特性のノイズ)を用いて、外部の音のマスキングを行っています。

ウエイトノイズは聴力検査で用いられるオージオメーターで出力することのできるノイズの一つですが、一般的には手に入れられないと思いますので、今後、聴覚障害疑似体験用のウェイトノイズを作成し公開したいと考えています。

聴覚障害というものに構えてほしくないことは強調したい

「聴覚障害の体験をしてみたい」と思いお読みいただいたのに、その意味やあるべき論を長々と書いてしまって申し訳ないのですが、どうしても健常者と障害者の間に横たわる深い壁を壊したくついつい長くなってしまいました。

Oh!みみなびは聴覚障害者らによって運営されていますが、その中だけでもそれぞれに自分の障害に対する思いはまったく異なります。Oh!みみなびでは「あるあるトーク」として聴覚聴覚者と健聴者で単刀直入に疑問をぶつけ合う企画を行っています。

【聴覚障害者のあるあるトーク】Vol.7 聴覚障害が治せるなら治す?

インターネットなどで検索すると障害者が社会的弱者である点を強調しすぎる情報が目に入ることが多いと思います。確かにそうなのですが、その強いイメージを持ちすぎるとお互いにかまえてしまうこともあります。

障害者採用で障害にあった職務を提供するのももちろん良いことですが、逆に力を過小評価してしまったりして本人の価値が社会で生かせないということもまたもったいない話だと思います。だからこそ、Oh!みみなびはいろいろな意見を扱いたいと思っています。プラスの方向に目を向けて、これからも情報を発信していきたいと考えています。

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