肥満な人は聴力低下のリスクが高まる?
日本人対象の研究で肥満と聴力低下の関係が明らかに
聴力に関する大手企業の従業員を対象にした前向きコホート研究
肥満と難聴にどのような関係があるのでしょうか。
一見するとあまり関係がなさそうですよね。
しかし、日本を代表する大企業の従業員を対象にしたデータに基づいて、
肥満と難聴の関係について「前向きコホート」という最も信頼性の高い方法で、
調査したところ、「肥満は聴力低下のリスク要因」であることがわかりました。
この論文は専門医学雑誌Clinical Nutritionに掲載されました。
実は代謝と難聴に関連があると考えられている
これまでの研究でも肥満と難聴について関連が指摘されていました。
しかし、医学研究は人種や地域によってその結果に差異が出ることもあります。
そのため、研究者たちは大規模な日本人労働者における肥満と難聴の関係を探りました。
この際に、前向きコホートという過去からの継続した観察により、
結果としてどういう症状が現れたかを見つける方法を取りました。
一般的には因果関係が探りにくいこともありますが、
継続的に検診を受けている労働者のデータを用いることで、
代謝表現型と難聴性の因果関係をより正確に探った点が新しいポイントです。
約5万人の会社員で聴力検査では問題なかった人が対象
この調査には、20〜64歳の48,549人の従業員が含まれており、
ベースラインで聴力損失はありませんでした。
純音聴力検査は毎年実施され、1 kHzおよび4 kHzで聴力検査を行います。
その後も、ボディマス指数(BMI)および代謝表現型に関連して、
難聴との関連を探っていきました。
結果として追跡期間の中央値は7年で、
1595人と3625人がそれぞれ1kHzと4kHzで片側性難聴を発症しました。
1 kHzでの聴力損失の調整ハザード比(HR)は、
BMI 25.0-29.9においては1.21(1.08、1.36)、
BMI≥30.0においては1.66(1.33、2.08)でした。
4 kHzでの聴力損失に対応するHRは1.14(1.05、1.23)
および1.29(1.09、1.52)でした。
ハザード比というのは2つの群を比べたときに、
片方に比べてどのくらい影響が出たかを示す数値です。
ある臨床試験で検討したい新薬Aと比較対象の薬剤Bとを比べたとき、
ハザード比が1であれば2つの治療法に差はなく、
ハザード比が1より小さい場合には治療Aの方が有効と判定され、
その数値が小さいほど有効であるとされます。
例えばA薬と対象のB薬を比較するというある臨床試験で、
ハザード比が0.94という結果であれば、
A薬はB薬よりリスクを6%減少させたという意味になります。
https://oncolo.jp/dictionary/hr
つまり、この場合はBMIが25から30未満の人は、
BMIが25以下の人と1kHzの聴力低下リスクが、
1.21倍高いということです。
また、肥満でも健康な数値が出ている人もいますよね?
その場合は聴力低下に影響があるのでしょうか。
健康な非肥満者と比較して、1 kHzでの難聴の調整後HRは、
不健康な非肥満者では、1.19(1.03、1.39)
健康な肥満者では、1.27(1.01、1.61)、
不健康な肥満者では、1.48(1.25、1.76)
4 kHzでの調整後ハザード比は、
不健康な非肥満者では1.13(1.04、1.25)、
健康な肥満者では、1.21(1.04、1.41)、
不健康な肥満者では、1.26(1.12、1.41)でした。
よって、「肥満であれば聴力低下がリスクが高い」ことがわかります。
もちろん肥満でなくても不健康な人は健康で肥満ではない人よりも、
聴力低下のリスクが高いことが示されています。
しかし、不健康な肥満者は健康な肥満ではない人と比べるとなんと、
1kHzで41%、4kHzで26%もリスクが高くなるということです。
結論として肥満者は難聴のリスクを増加させる
研究結果を見ると不健康な非肥満者よりも健康な肥満者の方が、
難聴リスクが高いという点が興味深いですね。
論文ではこう結論づけています。
「太りすぎと肥満は難聴のリスク増加と関連しており、
代謝的に不健康な肥満は追加のリスクをもたらす可能性があります」
「私は肥満でも健康だ」と思っていたこともありますが、
肥満であるという事実が聴力低下のリスクに繋がるというのはちょっとショック!
https://www.clinicalnutritionjournal.com/article/S0261-5614(19)30133-5/