【イラストで解説】人工内耳とは?仕組みと手術方法とかかる費用について

人工内耳の仕組みとその手術方法、おおよその費用

聴覚障害を抱えている方の聴力を補助する機器としては補聴器が広く知られていますが、その他にも人工内耳というものがあります。
この記事では、人工内耳について下記の順番でお話しします。

人工内耳の仕組み

補聴器との違い

人工内耳とは、補聴器によって十分な聴覚補助を受ける事ができない方を対象とした人工臓器の1種です。
一見すると補聴器と変わらないようにも見えますが、何が違うのでしょうか。

補聴器は周囲の音量を大きくしているだけで、音の伝達そのものは健常者と同じように自身の器官が行っています。
それに対して、人工内耳は機械が器官の代わりに音を伝えています

上の図は耳の構造を大まかに示したものです。
音(空気の振動)が鼓膜から耳小骨、蝸牛へと順番に伝わっていき、最終的に聴神経を通じて脳へと電気信号が送られることで私達は音を認識することができます。

【イラストで解説】耳の仕組みと聞こえの仕組みって?わかりやすく解説します

これらの部分に何らかの問題があり、音を正しく聞き取ることができない症状を一般的に難聴と呼んでいます。

人工内耳の手術について

鼓膜や耳小骨に問題があることによって起こる難聴については手術で改善する見込みがありますが、蝸牛に問題がある場合は現在の医学では改善が難しいとされています。
そこで、蝸牛の中に電極を埋め込むことで直接聴神経を刺激するのが人工内耳です。

人工内耳は大きく分けると、外部に露出した体外部と手術によって耳の奥へ埋め込む体内部の2つに大別できます。
それぞれ下記のような役割を持っています。

体外部
  • マイク
    周囲の音を拾う。
  • 変換装置
    取得した音を電気信号へと変換する。
  • 送信用コイル
    変換された電気信号を体内の受信装置へと送信する。
体内部
  • 磁石
    送信用コイルを頭皮に固定する。
  • 受信装置
    電気信号を受信して電極に送り込む。
  • 電極
    電気信号によって聴神経を刺激する。

体外部で取得した音を電気信号へと変換し、体内部の電極を通じて直接聴神経を刺激しています。

人工内耳の対象者と手術費用について

人工内耳は難聴と診断された方が全員が適用できるわけではなく、人工内耳の装着対象となるのは補聴器による聴覚補助が十分に得られない方に限られています。
具体的には、年齢に応じて下記の条件を満たしている必要があります

小児
  1. 原則1歳以上(体重8kg以上)。
  2. 補聴器を装着していない状態の平均聴力レベルが90dB以上。
  3. 上記の条件が確認できず6カ月以上の補聴器の装着を行ったが、装着した状態の平均聴力レベルが45dBから改善しない。
  4. 上記の条件が確認できず6カ月以上の補聴器の装着を行ったが、装着した状態の最高語音明瞭度(音声の理解度を示す指標)が50%未満。
成人
  1. 補聴器を装着していない状態の平均聴力レベルが90dB以上。
  2. 平均聴力レベルが 70dB 以上、90dB 未満で、補聴器を装着しても最高語音明瞭度(音声の理解度を示す指標)が50%以下。

上記以外にも細かい条件や例外があるので、人工内耳の装着を考えている方は医療機関などでご相談ください。

手術費用はどのくらいかかるの?

人工内耳は健康保険の適用対象となりますが、保険適用前の費用としては、外部装置が約100万円、内部装置が約150万円程度します。また手術と入院費用は約100万円ほどかかります。

一般的には保険適用後は3割負担をすることになりますが、「高額療養費制度」の適用対象となります。また自治体からの補助が出る場合があるので実質的な負担額は、数万から数十万円程度に抑えることができます。


参考
高額療養費制度を利用される皆さまへ厚生労働省

人工内耳のメリット・デメリット

補聴器と比較して人工内耳はどのようなメリットとデメリットがあるのかを説明します。

メリット
  • 聞こえの改善が期待できる。
    人工内耳は直接聴神経を刺激するので、補聴器と比較して聞こえが改善することが多いとされています。
  • 小児の言語発達を促す。
    副次的効果ですが、補聴器と比較して明瞭な聞き取りができるため小児の言語発達を促すことも期待されています。
    そのため、言語獲得期の小児に対しては早期に人工内耳を検討することが好ましいです。
デメリット
  • 費用が高い。
    本体費用に加えて入院や手術の費用がかかるため、人工内耳の手術の総費用が約400万円と補聴器と比較しても高額になります。
    ただし、1台目であれば保険などを使用して個人負担を1~10万円程度に抑えることが可能です。
    詳しくは各自治体の担当窓口、または医療機関にご確認ください。
  • 手術をする必要がある。
    耳の中に装置を埋め込むため、手術をする必要があります。手術そのものは2~3時間程度で完了しますが、退院までは2~4週間程度かかります。
    また、人工内耳を装着すればすぐに健聴者のように聞こえるわけではなく、定期的なリハビリが必要です。
  • 一部の活動に制限がある。
    耳の中に装置を埋め込むため、体外部の装置を外していても一部の行動に制限があります。

    • MRI検査を受けるために、頭部を切開して磁石を外す必要がある場合があります。
    • 格闘技など人工内耳の体内部に強い衝撃が加わる可能性のあるスポーツは避けてください。
    • 水圧の関係上、マリンスポーツでは25m以上深く潜ることはできません。

まとめ

人工内耳とは、聴覚補助が十分に得られない方のための人工臓器の一種です。

補聴器がただ音量を大きくしているのに対し、人工内耳は音を直接神経に届けています。
手術や一部行動に制限があるということで補聴器と比較してハードルが高い面もありますが、より聞こえの改善が期待できるというのが強みです。

全ての方が適用できるわけではないので、補聴器による聴覚補助が十分ではないと感じている方は医療機関などでご相談ください。特に言語獲得期の小児に対しては早期の検討が望ましいとされています。

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