聴覚障害と合併して見られる障害について
ぷよし田
聴覚障害と聴覚障害に関連する障害について
かつて聴覚障害者は聞くこと・話すことができない人だった
「ろうあ者」という言葉を聞いたことがありますか?漢字では「聾啞」と書きます。
いわゆる高度難聴を聾といい,生まれつき,または生後3歳以内に高度の難聴になったために,言語学習ができなくて発語のできない状態を聾啞という。歴史的には〈みみしい〉,俗語としては〈つんぼ〉という言葉が使われた。なお,聴覚障害はないが,言語の発達が遅れてほとんど話すことができない状態を聴啞という。また,聾啞または聴啞で話すことができない状態を歴史的には〈おおし〉または〈おし〉といった。
コトバンク−聾啞
生まれつき聞こえない、もしくは3歳以内に高度難聴になると、言語が発達せず、単に聞こえないというだけではなく、話すことも難しくなります。
普段何気なく会話をしている健聴の方には想像もつかない世界ではあるのですが、言葉が使えないということは、つまるところ読み書きも難しくなります。
人間は学習によって音と文字を結びつけているので、昔の人で言葉は話せても文字が読めない人がいるのと同じで、言語の発達は聞こえない→話せない→読めない・書けないとすべてつながっているのです。
これは、大変深刻なことで社会では共通言語を使うことでお互いに意思疎通を行っているので、言葉ができないということは一般的な社会的から孤立してしまうのです。
今日では、手話がろう者の言語であるという運動が行われ、また世界的にも障害者に対する理解を深める啓蒙活動が進んではいますが、それでもまだ日常のあらゆる場面でコミュニケーションを取ることはとてもむずかしいのが現実です。
現在「ろうあ者」という言葉をあまり聞かない言葉になったのは、明治時代に日本初のろう学校が開校され、口話の訓練が行われたことにより発語ができる人が増えたこと。
また、戦後は補聴器、人工内耳の装用によって高度難聴者も音を知覚することが可能になり、発話能力の発達に貢献したことがあるのではないかと思います。
聴覚障害と言語障害について
聴覚障害があるまま何もしなければ言語障害になるということはおわかり頂けたでしょうか。
ろうあ者は聴覚障害者でありながら音声言語障害も併せ持っているといえます。現在でも特にご高齢の方の中にはろうあ者の方がいらっしゃるかと思います。
聴覚障害者は身体障害者手帳の等級としては2級が最高となりますが、音声言語障害を併発している場合は「重複障害」という扱いになり1級が交付されることもありますが、現実として発話がほとんど一般の人には聞き取りが困難なレベルでも2級が交付されています。
先程の節で簡単にろうあ者についてご紹介しましたが、歴史的には1898年に電話の発明者としても有名なアレクサンダー・グラハム・ベルが来日し、日本のろう教育の遅れを指摘し、口話法(発話の訓練をすること)による教育をすべきことを講じたとされています。
それからときは経ち、1946年にベル研究所によりサウンドスペクトログラムが開発され、音声言語の分析研究がされるようになりました。聴覚障害者の音声言語の所見には変動が大きいことが研究で明らかになりました。
今日でも発音明瞭度検査というものが行われることで客観的にその発話のレベルを把握していますが、口話法のみでは最大でも40%~50%程度、残存聴力の補聴を行うことで80%まで明瞭度が高まるという報告がされています。
以下のグラフは聴力と語音発音明瞭度の関係性を示したグラフです。平均聴力損失が大きいほど、つまり聴力が悪いほど語音発音明瞭度は下がるという相関関係がありますが、ばらつきは非常に大きく、個人差が大きいことが分かります。
聴覚障害のある人の中には耳鳴りを感じる人も一定数いる
次は聴覚障害者に多い症状である「耳なり」について説明したいと思います。
耳なりについては以前の記事の中でも触れましたが、聴力が落ちたことにより脳が「あれ?音の量が減っているぞ」と勘違いしてしまい、頭の中で音を作り出してしまっていると言われています。
耳鳴りに悩む人はとても多く10%〜15%の人が耳鳴りの症状があると言われています。
つまり、耳の機能が衰えたときに耳鳴りがすると感じることが多いのです。そんなときは補聴器や人工内耳を使用することで症状を緩和することができるとされています。
実際に、研究に依ると補聴器の適切な使用により50%の患者さんが改善すると報告があります。
鳴っていない音があたかも聞こえてしまうということは、静かな状況で耳鳴りを感じやすくなるということです。そこでノイズや環境音を意図的に聞くことも対策の一つとして挙げられます。
以前は「カフェインの摂取を控えること」も一つの対策として挙げましたが、近年の研究で、30歳から44際の女性を対象にした研究ではむしろカフェインの摂取量が多いほど耳なりリスクが減る可能性が示唆されています。
このように耳鳴りの症状についてはまだまだ医学的にもわかっていないところがあるので、あまりいろいろな情報に振り回されないようにしたいですね。
聴覚障害と平衡機能障害
平衡機能障害とは「四肢体幹に器質的異常がなく、他覚的に平衡機能障害を認められる障害」です。
平衡機能障害の原因は末梢神経、外傷、中枢神経系によるものなど様々で、具体的な例は以下のとおりです。
- 末梢迷路性平衡失調
- 後迷路性及び小脳性平衡失調
- 外傷又は薬物による平衡失調
- 中枢性平衡失調
中枢神経・末梢神経と言ってもあまり身近な感じはしないかもしれませんが、耳の奥にある三半規管の機能の障害から神経に送られる情報に障害が起こるもので、特に「めまい」が生じる障害です。
中枢性めまいと末梢性めまいがありますが、中枢性めまいは起立歩行障害が起こるなど特に症状が重い傾向があります。末梢性めまいは耳なり(蝸牛症状)とも関係しています。
代表的な疾患は以下のとおりです。
- 良性発作性頭位めまい症
- メニエール病
- 前庭神経炎
- めまいを伴う突発性難聴
- 薬剤性
聴覚障害との重複障害について
遺伝性の聴覚障害のうち3分の1は症候性という別の特徴がある障害
Reardon and Pembreyによると、遺伝性の聴覚障害のうち3分の1は「症候性聴覚障害」という他の臨床的特徴を含む聴覚障害であるとされています。
他の臨床的特徴とは、盲、頭蓋顔面欠損、色素異常などが挙げられます。
最もよく見られるのが、ワーデンブルグ症候群、アッシャー症候群、ペンドレッド症候群、チャージ症候群、神経線維症2型症候群、鰓弓耳腎症候群です。
ヘレン・ケラーが代表的とされる盲ろう
盲ろう者は「目が見えず、耳も聞こえない」というイメージがありますが、視力、聴力共に完全に失っている盲ろう者は稀で盲ろう者のうちの6%ほどしかいないとされています。
聴覚障害と視覚障害は別個の障害ですので、先に聴覚障害を発症する人もいればその逆もいます。
盲聾の原因としては常染色体劣性遺伝による遺伝性疾患である「アッシャー症候群」、
遺伝性の常染色体劣性症である「アルストレム症候群」、
常染色体優性症候群である「チャージ症候群」、「先天性風疹症候群」のほか、
誰しもに起こりうる盲聾としては、高齢に伴う視野欠損と聴覚障害の併発が挙げられます。
実は盲ろう者のうちの半数が高齢者であるということから必ずしも皆に無関係ではありませんね。
聴覚障害と発達障害・知的障害の重複障害
聴覚障害とその他の障害を持つ人ももちろんいます。
特に聴覚障害者は周囲とのコミュニケーションがうまくできないことがきっかけとなり社会的に孤立しがちです。そのため、精神疾患を併発する人も少なくありません。
また一般的に発達障害や学習障害の児童がいるように聴覚障害児にも同様の障害を持つ子もいます。
こうした子どもたちは聴覚障害と発達障害の両方に詳しい専門家の指導を受けることが重要です。
例えば東京学芸大学の濱田先生は聴覚障害と発達障害児の支援を行っています。
大塚ろう学校では「学習活動ダンボ」という取り組みがされており、聴覚障害と発達障害を併せ持つ小学生を対象に、ろう学校や特別支援学校の先生や教職を目指す大学生と共に、指導計画を立てながら子どもたちの発達を見守っています。
聴覚障害は検査によってわかる障害ですが、学習障害はわかりにくい障害です。単に個性として捉えられてしまい適切な教育が受けられないまま教育が不十分になることもあります。
読み書きが苦手という症状が強く現れると学業不振にだけではなく、学習以外の意欲の減退が指摘されており、治療的に関わることが大切であるとされています。
聴覚障害と認知症
お年寄りになると誰しもが耳の聞こえが悪くなります。これは昔から当たり前の事実として扱われていましたが、認知症もまたそのように思われていました。
しかし、難聴が認知症の最も大きな危険因子であるという指摘は知っていましたか?
認知症という病気の原因は「高血圧」「肥満」「糖尿病」など生活習慣の改善で修正することが可能とされていましたが、難聴もまた認知症の原因の一つとして挙げられています。
難聴というのは耳からの音声情報が少なくなってしまうため、脳に伝えられる刺激が減ります。それにより脳細胞の活動が働きにくくなり、認知症の発症に影響するのです。
お年寄りはパートナーの死別や家族との別居などにより孤立しがちなため、また運動機能も衰えるため外出が減ってしまうなど人との関わりも減ります。すると会話をすることも減るので脳への刺激もまた減ってしまいます。
人が社会との関わりを失うと様々な影響が出てくることが分かりますね。