【解説】聴覚障害者が見る学歴別の就職活動とは?向いている職業例を紹介

岐路

聴覚障害者が見る学歴別の就職活動と企業の採用活動・求人の特色

聴覚障害があるから就職や転職に苦労する?

聴覚障害を抱えている子どもや、そのご両親にとって、将来の進路は人生においてもっとも重要な関心事だと思います。

まず、気にされるのは聴覚障害そのものが就活に不利にならないかということだと思います。

聴覚障害者を採用しない会社や職種もある

制限を受ける業種があり、選択できる職業に制限があることは事実です。

その一方で、採用側も障害の特性を把握するよう努めてくれることも多く、障害のない方以上に一人ひとりをきちんと評価してくれるチャンスに恵まれることもあります。

聴覚障害があっても学歴やスキルで就職先が変わる

私見ですが、「どこを卒業したか」が就職において最も影響を与えると考えています。

配慮が必要なレベルの障害であれば、突出してレベルの高い大学を除き、就活の流れは似通ったようなものになります。障害のサポートに特化した学校であれば、障害者向け求人を出している企業と強い繋がりを持っている場合もあります。

なので、どこを卒業し、就職したかを3つのコースに分け、それぞれの就職事情についてお話し致します。

(便宜上「学歴」という言葉を用いますが、世間一般の「学歴」とは異なる意味で説明しますので、この点を念頭に置いてお読みいただければと思います)

最終学歴に見る聴覚障害者の就職先の傾向

平成29年度の総務省統計局の発表によると、18歳の人口はおよそ120万人となっています。

先天性の聴覚障害者は1000人に1人の割合で産まれると言われているので、およそ1200人が進路について考えていると思います。(障害者手帳が支給されない程度の聴覚障害者や、後天性の聴覚障害者のことも考慮すると正確な数ではありませんが、指標値として考察します。)

一般的に、高卒と大卒では、就職先もそうですが、給与を中心とした待遇面でも差があります。

当然、聴覚障害児でも、その例に漏れず高卒と大卒で様々な差があります。
さらに、高卒でもろう学校を卒業する場合と、一般の学校を卒業する場合で、ある程度の差があります。

最終学歴を3つに分け、考察していきます。
(専門学校などの専修学校へ進学する聴覚障害児は非常に少なく、データが無いためここでは考察しません。)

特別支援学校(ろう学校)高等部卒業時

文部科学省の調べによると、平成29年3月に特別支援学校を卒業した児童数は451人です。
卒業後の進路の割合は以下の通りとなっています。

進 学 35.9%
就 職 43.2%
その他 20.9% ※教育訓練機関等入学者、社会福祉施設・医療機関入所者、無就業など

特別支援学校の高等部を卒業する児童は、就職を選択する傾向が強いです。

ただ、近年は一般の高校でもサポートが充実していたり、
人工内耳の普及などによる技術の発達から、
特別支援学校に入学する(高等部を卒業する)聴覚障害児は減少傾向にあり、
上記の進路の割合の振れ幅が大きい年もあります。

卒業後の就職先として、基本的には地元の企業に就職することが中心になります。
中には、自立支援に力を入れている企業もあり、
そのような企業は特別支援学校を通じて求人を出していることが多い
です。

職種としては、事務補助や、軽作業といった、
マニュアル通りの対応を求められる作業に従事することが多くなります。

また、特別支援学校によっては職業訓練をメインとしたコースも有り、
このコースを卒業してそのスキルを活かせる職業に就くこともあります。(理髪・美容など、いわゆる「手に職」系の仕事に就くための訓練)

用語解説
  • 特別支援学校:聴覚障害や視覚障害、知的障害といった様々な障害者の学習・自立支援を目的とした学校のこと。ろう学校、盲学校という名称もありますが、全て特別支援学校に分類されています。
  • 教育訓練機関:ここでは障害者を対象に、実務能力の向上を目的とした訓練を実施している機関を指します。詳しくはこちら
  • 社会福祉施設・医療機関:障害者の生活を支援する施設のことです。詳しくはこちら


参考
文部科学省【第1部 集計編】(PDF)

特別支援学校以外の高校卒業時

文部科学省の調べによると、平成29年3月に高等学校を卒業した児童数はおよそ107万人です。
卒業後の進路の割合は以下の通りとなっています。

進 学 54.7% ※大学・短大への進学者のみ
就 職 17.6%
その他 27.7% ※専修学校、無就業など

児童全体で見ると、過半数が大学・短期大学への進学を選択しています。

専門学校などの専修学校への進学も加えると、80%近くの児童が進学を選択しています。
一般的な学校に通う聴覚障害者のデータは無いため、
総務省統計局の発表の人口を元に、700人程度として考察します。

特別学校で述べた事情および、大学の学習環境や企業の就業環境の改善が進んでいることから、
聴覚障害者のみでも進路の割合はあまり変わらないと考えられます。

そのため、特別支援学校の高等部卒業時と比べると、進学を選択する傾向が強いと考えられます。

就職する場合、基本的には特別支援学校卒業時とあまり変わらないと考えられます。
ただし、基本的に一般向けの求人を紹介される傾向があるため、
企業側の要件とマッチすれば一般的な事務職・専門職に就くことも珍しくありません。


参考
文部科学省高等学校卒業者の学科別進路状況

大学卒業後

大半は就職します。他大学や大学院へ進む方もいます。
高校卒業後の就職と比べると、就職先の選択肢は最も多くなります。

就職先に占める職種の割合は事務職が多くなる傾向にあります。
理由としては、地元で働きたいと考える方が多く、その結果選択肢が狭まる傾向があるためだと考えられます。(余暇を重視して残業が少なそうという理由で事務職を選択する方もいますが)

また、近年の開発・研究職は大学・大学院を卒業していることが当たり前になってきていますが、障害者も同様に求人が出されるので、そういった専門職に就く方も高校卒業時と比べて多くなります

また、条件が整えば、健聴者と同等に聞き取れる場合などは営業職に就く方もいます。


参考
総務省統計局 2- 1 人口の推移と将来人口

聴覚障害者の企業への就職・転職において採用枠は2つ

聴覚障害があるからといって、必ず障害者採用を受けなければならないということは全くありません。

身体障害者手帳の交付を受けていたとしても一般と同じ枠で就職・転職をすることはできますし、告知すれば採用されないことが予測される事項について、自発的に告知する法的義務まではないという裁判例があります。(S事件・東京地裁 平24.1.27判決 労判1047‐5)

そのため障害者であっても一般枠での就職もできますし、聴覚障害者の場合はその程度が様々であることとから一般枠での就職も良く見られます。

一方で会社側のサポートが乏しく、自分の能力を越えた業務を引き受けることになれば負担も大きいです。自分にとってどちらの採用が良いのかについては、就職先の情報収集を怠らずご検討下さい。

国は50人以上の従業員を持つ企業に対して、
従業員の2.0%に相当する障害者を雇用することを義務付けています。

そのため、企業の採用ページやハローワークの求人では通常の「一般枠」に加えて、
「障害者枠」というものを用意していることがあります。

  • 一般枠
    健常者と障害者を区別せず、採用の選考を行う枠。
  • 障害者枠
    健常者は含まず、障害者だけで採用の選考を行う枠。

障害者枠の該当条件

障害者であれば無条件で障害者枠でエントリー可能というわけではありません。
具体的には下記の条件をすべて満たしている必要があります。

  1. 知的障害者、精神障害者、身体障害者のいずれかであること。
  2. 障害者手帳や療育手帳を持っている、あるいは就職するまでに取得すること。

この条件を満たしている方は、一般枠と障害者枠のどちらでもエントリーすることができます。

一般枠と障害者枠の違い

前項で、条件を満たしている方はどちらでもエントリー可能と書きましたが、一般枠と障害者枠はどのような違いがあるのでしょうか。
細かい部分は企業によって異なりますが、一般的には障害者枠には下記のような特徴があります。

  • 採用人数
    障害者のみの選考なので、採用数とエントリー数が一般枠と比較して少ない傾向にあります。
    ただし、ハローワークにおける障害者の就職件数を見ると数年前と比較して倍程度になっており、企業の障害者雇用数は増えています。
  • 選考過程
    障害の内容に応じて、一部の選考ステップが免除されることがあります(聴覚障害者であればグループディスカッションなど)。一般枠でのエントリーでも自己申告によって同様のサポートを受けられる場合がありますが、障害者枠でのエントリーの方がよりスムーズです。
  • 雇用形態
    就職時は契約社員での採用が多いです。ただし、仕事の契約を打ち切られることは少なく、数年間継続して仕事をすることで正社員として雇用されることもあります。
  • 職種の幅
    障害者枠の職種は軽作業か事務作業が多く、一般枠と比較して専門職が少ないという傾向があります。

上記はあくまで一般的な例です。障害者枠でのエントリーを考えている方は、希望する企業の採用ページなどを確認してください。

また、近年では首都圏の大企業を中心に雇用条件や職種など一般枠に近づいている傾向があります。

聴覚障害者に向いている職業・仕事

聴覚障害者の場合、その障害の程度や教育歴にもよりますが、多くの場合音声言語によるコミュニケーションが難しいことから、あまり会話を必要としない「生産工程・労務」や「事務」に向いていることが多いようです。

これらのデータは厚生労働省の平成29年「障害者雇用状況の集計結果」をもとにしたものです。

全体として聴覚障害者は生産工程、事務、専門技術職への就職が多い

あくまで全体的な傾向ではありますが、聴覚障害者は身体が健康であれば、身体を用いることの多い仕事に就業している方が多いと言えます。

しかし、その身体障害者手帳の等級によらず、ある程度の聞き取りができる聴覚障害者もいれば、会話の聞き取りが困難な聴覚障害者もいます。また、発音がスムーズに行える聴覚障害者もいれば、発音がうまくできない聴覚障害者もいます。

そして前出のとおり、大学での高等教育や専門教育を受けている聴覚障害者もいれば、特別支援学校の高等部を卒業している聴覚障害者もおり、それぞれにできることとできないことがあります。

そのため、聴覚障害者として全て同じ仕事を任せるのではなく、面接時の対応やスキル、教育歴などを鑑みた配置が必要です。また、周囲の配慮さえあればある程度通常の業務がこなせそうであると思えれば、様子見としてできる範囲での健常者と同じような業務を体験させてみることも必要でしょう。

https://ohmiminavi.co.jp/2018/08/20/hearing-impaired-employment/

聴覚障害者が入りたい会社を選ぶ時に考えるべきこと

2018年8月現在、常時雇用している労働者数が100人を超えるすべての企業に障害者雇用義務が課せられています。そのため、障害者雇用義務が課せられている企業が、障害があることを理由にして採用しないということはできません。

一方でこれは、障害者が必ずどんな会社でも採用されるという意味ではありません。それは健常者の就職活動と同様です。健常者であっても求職者も企業側も互いに合わないと感じた場合は採用に至りませんし、会社の業務内容や環境によって、必要とされるスキルや能力が違うのは当然です。

特に障害がある場合、企業側の理解が不足していたり、理解はしていても職場に受け入れ体制ができていないことが多いこともあります。また、中小企業などは分業が進んでいないため、オールラウンダーが求められることが多く、障害者に適切な業務を切り分けて与えることができないことから、障害者を雇用することが難しいことが多いのです。

そうした環境では障害者の能力を越えていることがあるため、たとえ無理して雇用されたとしてもお互いにあらゆる面で苦痛に感じてしまうでしょう。

それを乗り越えてでも自分の目指す仕事がしたいと思えるのであれば、面接でその熱意を伝えて下さい。そうすれば面接官の心を揺さぶることができるかもしれません。

聴覚障害児の親として就職について考えておきたいこと

障害の有無にかかわらず、子どもはいつか独り立ちしなければなりません。

聴覚障害者は、コミュニケーション面のストレスから短期間の離職率が高いと言われています。
そのため、進路を強制するのではなく、お子さんと話し合ったうえで支援してあげてください(その上で、将来の選択肢を増やすためにも勉学には力を入れた方が望ましいですが)。

当サイトでは、聴覚障害児を持つご両親へのアンケート結果なども紹介していますので、こちらも参考にしてください。

参考
アンケート記事Oh!みみなび

聴覚障害者の働き方については、また別の記事にてお話いたします。

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