聴覚障害のある高校生へ。日本社会事業大学で学んでみませんか?斉藤くるみ先生インタビュー
聴覚障害者大学教育支援プロジェクトについてお話を伺いました
日本社会事業大学の概要
皆さんは、「日本社会事業大学」を知っていますか?まずは大学について少し調べてみました。
1946年の創設以来、厚生労働省の委託を受けた唯一の大学として、「指導的社会福祉従事者の養成」と「社会福祉教育に関する研究」を担い、将来の社会福祉リーダーとなりうる人材の養成を目標とした学びを実践しています。
日本社会事業大学には「社会福祉学部」および大学院として「社会福祉学研究科」、「福祉マネジメント研究科」「通信教育科」を設置しています。
社会福祉従事者というのは、生活する上で困っている人々や、
生活に不安を抱えている人に対して、関係を構築し問題解決のための援助を提供する人のことです。
一般的には「社会福祉士」という資格が知られていますが、
これは特に専門的に身体もしくは精神上の障害がある人や、
日常生活を営むのに支障がある人の、福祉に関する相談に応じたり、
助言、指導、福祉サービスを提供する専門職の資格です。
また、医師やその他の保健医療サービスを提供する者や、
その他の関係者との連絡及び調整その他の援助を行うこともあります。
社会福祉士として、自治体や社会福祉施設・病院等でソーシャルワーカーとして、
働くことを目指す学生や学校の先生、保育士、介護福祉士を目指す学生が学んでいます。
斉藤くるみ先生の聴覚障害に関する取り組みをご紹介します!
斉藤くるみ先生は日本社会事業大学の福祉援助学科で教授をなさっています。
主な研究分野は「コミュニケーションと脳」や「手話の構造と人間の言語能力、認知能力」、「少数言語者の人権」、「人間と動物のコミュニケーション」です。
大学では「聴覚障害者大学教育支援プロジェクト」を立ち上げていらっしゃっており、
「ろう・難聴高校生の学習塾」や「手話による教養大学」もこのプロジェクトで実施されています。
現在、取り組まれているプロジェクトは以下のとおりです。
- 聴覚障害学生支援PJ室
- ろう者のための手話による教養大学
- ろう・難聴高校生の学習塾
- コミュニケーションバリアフリー課程
大学の学生支援だけでなく、一般にも開かれた手話による教養大学や、
コミュニケーションバリアフリー課程など広く活動されていらっしゃいます。
そして、聴覚障害学生にはこちらのプロジェクト室から様々なサービスを提供しています。
具体的には手話通訳、またはパソコンテイクによる情報保障を提供しています。
大学の先生方に聴覚障害学生に対して必要なサポートの情報提供や支援もしています。
聴覚障害のある学生と言っても、受ける授業や講義スタイルによって、
そして、ひとりひとりの障害によって適切な支援の方法や希望度は違います。
しかし、いずれにしても先生方に資料の事前提供をお願いしたり、
通訳のタイムラグを意識して講義を行ってほしいなど学生からお願いしにくいこともあります。
その際には、もちろん学生から自発的に声をあげることも大切ですが、大学側からも先生が配慮のしやすい環境を作ってもらうことで、スムーズにお互いいい関係で学習を進める潤滑剤にもなっていると思います。
これから聴覚障害者や学生支援のプログラムを作ることを検討している場合は、
ぜひ参考にして頂けると効率的かつ効果的な形ができると思います。
- 聴覚障害学生の意思表明支援のために ―合理的配慮につなげる支援のあり方―
http://www.tsukuba-tech.ac.jp/repo/dspace/handle/10460/1581
私の通っていた大学でもノートテイクやパソコンテイクは実施されていましたが、
先生によっては資料が読みにくかったり、映像教材が多用されていたりなど、
今思うと細かいところで障害のある学生には難しい場面が多かったのではないかと思います。
先生方も聴覚障害学生がどういったところで困ってるかを想像することは難しいと思いますので、こうした支援室を通して環境を整えてもらえると学生はとても助かるのではないかと思いました。
聴覚障害学生が日本社会事業大学を選んだ理由
大学で手話による講義で卒業単位の取得ができる
聴覚障害学生が日本社会事業大学を選んだ理由、それは「情報保障の充実」だそうです。
実際に、プロジェクト室ができてから、聴覚障害者の受験希望者が増えています。
多くの在学する聴覚障害学生が、たとえはじめは「福祉」というものに興味がなくても、
「サポートが充実している」という理由でこの大学を選ぶこともあるとのことです。
「授業についていけなくなってしまった」という学生はいないということです。
「他の大学で十分な情報保障を受けれなくて、授業についていけなくなってしまった」
という学生もこうした支援が行き届いた環境なら十分に理解できる学びがあるかもしれません。
また大きな特徴として「手話による講義によって単位を取ること」ができます。
聴覚障害のある学生の中には、日本語や文字を読んだり書いたりすることが難しい人もいます。
そうした文字が苦手な学生でも手話による講義を受けることで、理解がしやすいだけでなく、
同じ障害をもつ人、ろう者と関わることでより障害に関心を持てたり、
先生に質問がしやすかったりなど授業を受ける姿勢にも大きな影響が見られるということです。
日本手話を「外国語」として選択できる
日本社会事業大学では英語のほか中国語、ドイツ語、フランス語、
そして「日本手話」を学ぶことができます。
日本手話は、生まれつき耳のきこえないろう者が一般的に使用する日本の手話です。
日本人がつかう手話ですから外国語というのもちょっと不思議な感覚を持ちますが、
日本手話を学びたいという人にとって、コミュニケーションのために、
他の言語を覚える必要があるのですから外国語と同じようなものでもありますよね。
なお、日本社会事業大学の特別支援教職課程においては手話が必修となっています。
ちなみに、こうした日本手話を外国語科目として設置している大学を調べたところ、
関西学院大学の人間福祉学部でも「第二外国語」として選択することができるそうです。
学生として、聴覚障害者と健聴者(一般的に聞こえる人)が、
お互いのことをよく知るため言葉を学ぶ機会をもてるというだけで大きな意味があると思います。
大学進学する聴覚障害者を増やすことが目標
ろう学校からの大学進学が普通になる日
ろう学校はこれまで職業訓練校としてのイメージが強くありました。
一部の先進的なろう学校では進学を目指すところもありますが、
現在においても、ろう学校における大学進学率は約19%にとどまっています。
全体の大学進学率は約58%であることを踏まえると3分の1程度にとどまっているのです。
以前、みみなびメンバーが自身の就職体験や、友人の就職活動について、
経験を記事にまとめましたが、この際もろう学校の卒業生は、学校で職業訓練を行い、
卒業後は軽作業や身につけた技能を活かした進路に進む方が多いことを指摘しています。
しかし、社会が高度化する中で専門的知識を身につけた人材が求められています。
聴覚障害の有無やその程度に応じて、最初から大学進学という選択肢を、
閉ざしてしまうことがあってはならないと我々も思います。
専門知識を身に着けた聴覚障害者がこれからは必要不可欠
例えば高度な専門的知識のあるろう者が行政の社会福祉分野で活躍できれば、これまで医師との意思疎通が難しくスムーズに支援を受けられなかったろう者の高齢者などが、同じろう者の専門人材を介して、介護保険や生活保護の申請を行うことができるようになります。
これまでも地方自治体では「ろうあ者相談員」という制度があります。
しかし、専門機関や医療機関で専門職資格が任用の基準として認識され始めている中で、
法的資格として福祉の勉強をした専門性のある人材を増やしていくことが、
聴覚障害を持つ人の悩みを迅速に解消し、生活を向上させることにつながるでしょう。
実は、すでに福祉への理解が進んでいる諸外国では、
ろう・難聴者に対応したソーシャルワークは1つの役割として確立されつつあります。
こうした背景から日本社会事業大学では、
聴覚障害者のソーシャルワーカーを育成することを目指しています。
斉藤先生の取り組まれている聴覚障害学生支援や、手話で大学の単位が取得できるということは、そのための第一歩なのだと改めて実感しました。
また、大学進学を増やすためにも、聴覚障害高校生の進学塾というところから、
草の根的に活動を広げることでより多くの聴覚障害者が大学進学し、学生が社会に出たときの活躍に期待して、精力的に活動にとりくまれているのだと理解することができました。
社会における聴覚障害者と手話について
小さな頃から手話を身につけることを言語能力が育つ
「子どものときに手話を獲得しておくことは、補聴器や人工内耳でやがて聞こえるようになったとしても、不利にはならない」と先生はおっしゃります。
日本では多くの聴覚障害者が大学から手話を覚えることが多いのですが、
なぜ手話を幼少期から学ぶ機会が多くないのでしょうか。
一つは「手話を身に着けた場合ことばの習得がおくれる」という。
加えて健聴の家族や両親からすれば、自分にはわからない手話で、
コミュニケーションすることは難しかったり、学習のための苦労や距離感など、
心理的に受け入れがたいということもあったからかもしれません。
しかし、最新の言語学や言語学研究者による研究では、幼児期から手話を使用することは、
言語能力の発達に寄与するものであり、それは発声・聴覚の訓練や、
そのための補助手段を排除するものではないと明らかになりつつあります。
まだまだ、日本では手話は一般的に受け入れられているとはいいがたいですが、
アメリカでは、セサミストリートにろう者がレギュラー出演するなど社会において、
手話を言語として使う人がいると言うことを幼少期から認知させています。
手話を言語としている人がいるという理解が社会で少しずつでも広まり、
手話を通して持っている能力を発揮できる社会を目指したいですね!
聴覚障害者福祉に関心がある人も、手話で大学を卒業したい人も
斉藤先生に大学の取り組みや聴覚障害学生支援活動についてのお話をお伺いして一番感じたこと、
それは「障害をもっていても周囲の人が支援してくれる環境が必ずある」ということです。
例えば、聴覚障害学生の高等教育支援を行うPEPNet-Japan(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク)という団体があります。
この団体では、全国の大学の聴覚障害学生支援に携わる先生や職員の方が支援に関して、様々な知見や経験、そして支援のあり方について議論して実践に生かしています。
こうした活動が行われていることを知ると、多くの聴覚障害者がろう・難聴だからといって、大学進学という選択肢を最初から考えないことだけは非常にもったいないなと感じます。
企業の障害者採用は会社によってはかなり理解が進んできていますし、自らの障害と大学で学ぶ専門性を活かすことのできる職場も少なく無いはずです。
もし進路に悩んだときはみみなびのような聴覚障害者の話を聞くことができるサイト、
斉藤先生のような聴覚障害に関する理解が深い先生などにコンタクトを取ってみてください。
日本社会事業大学では聴覚障害者が手話で入試を受けられます
聴覚障害学生枠 出願締め切りは2019年2月13日(水)まで
日本社会事業大学では、「聴覚障がい者入試」という入試枠を設けているそうです。
聴覚障がい者入試は2019年2月13日(水)までの出願となり、
本年度の期限はすぎてしまいましたが、来年度以降もチャンスがあれば出願してみてください。
聴覚障害のある生徒には「まずは大学を目指してほしい」と先生は仰っしゃります。
福祉に関心があるわけでない人も、大学に一度入学して見ると視野が広がると思います。
大学で学ぶうちに学びたいことが別に出てきた場合「編入」という形で多くの大学が、
他大学や学部からの途中入学を認める制度を持っています。
なので、大学に進学してみてから将来について考えるのも良いのではないでしょうか。
聴覚障がい者入試は来年以降も実施されると思いますので、
ぜひ全国の聴覚障害のある高校生は一度検討してくださいね。
聴覚障がい者入試 募集要項
募集人員 | 福祉援助学科、福祉計画学科/それぞれ若干名 |
試験科目 | 書類審査、日本手話(ビデオ出題、筆記解答)、 外国語/コミュニケーション英語I、国語/国語総合(古文・漢文を除く)、面接 |
詳細は日本社会事業大学の入試要項のページからご確認ください。
さいごに
Oh!みみなびは多様な意見や生き方を尊重できる社会を創るため、
特に、聴覚障害者や聴覚障害に携わる人にインタビューを依頼し、
その考え方や取り組みについて、より多くの人に知ってもらい、
最終的にはすべての人が抱える困難や壁を少しずつ無くしていく社会の実現に取り組んでいます。
今後も多くの方々にインタビューをお願いしたいと考えております。
また「この方の話が聞きたい!」などご要望がございましたら、
みみなびがその方にインタビューをお願いしてまいりますのでこちらまでご連絡ください。