歳を取ると耳が聞こえにくくなる老人性難聴の原因を解明

 

順天堂大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科学(主任教授・池田勝久)の神谷和作准教授、田島勝利大学院生らの研究チームは、老人性難聴の初期に起こる新たなメカニズムを明らかにしました。

参考 老人性難聴の進行に関わるメカニズムを解明~内耳で働く “ギャップ結合”が老化により劣化していく~順天堂大学プレスリリース

老人性難聴とは「お年寄りは耳が遠くなる」と一般的に言われる症状で、加齢に伴って進行的に進む聴力障害で、特に高音から聴力が低下する特徴があります。

近年はWHOを始めとした研究チームが認知症の発症リスクを高める最も大きな要因として老人性難聴を挙げており、認知症予防の観点からも老人性難聴への早期予防を推進しようという動きがあります。

老人性難聴は内耳の細胞が脱落することが原因ではない?

従来の報告では、老人性難聴は内耳の有毛細胞と呼ばれる感覚細胞の脱落が主な原因という説がありました。

有毛細胞というのはふわふわした細胞です。この有毛細胞は内耳の中にたくさん密集しており、音(音波)によって、鼓膜が震えると、耳小骨により拡大された振動が、有毛細胞を揺らし、細胞から電気信号で神経を介して脳に伝わります。

老人性難聴は、歳を取るとこの有毛細胞が徐々になくなっていくことが原因だと考えられていましたが、実は病態初期には有毛細胞はまだ正常に存在していることが確認されました。

しかし、内耳の重要な分子構造を解析したところ、若年期に比べてこの分子構造を構成する「ギャップ結合複合体」の構造が著しく崩壊していることがわかりました。

そして、構成成分であるコネキシン26とコネキシン30といったタンパク質の量も大きく減少していました。このコネキシンというタンパク質は、加齢性難聴において最も多く検出される原因因子のひとつとされています。

老人性難聴の鍵となるギャップ細胞とは?

「ギャップ細胞」というのは何でしょうか?

細胞は人間の体を形作る最小単位です。これらの細胞がたくさん集まることで一つの臓器や体の部位を作り出します。

例えば心臓は24時間ずっと鼓動する臓器で、筋肉の塊ですが、心臓を構成している心筋という筋肉はもともとは当然一つ一つの細胞が集まってできているものです。

当たり前のように普段私達は生きていますが、なぜ小さな細胞が集まると一つの臓器として機能するのか不思議ではないですか?実は細胞はお互いにコミュニケーションしているのです。

その際に自分の細胞内部と隣の細胞の内部を直接つなぐ通路があります。この集合というのが「ギャップ結合」であり、これを通して細胞間の物質の輸送をしているのです。

そして、ギャップ細胞は加齢に伴って少しずつ劣化していくことが知られています。

これまでに白内障やてんかん、皮膚疾患に心疾患といった病気も、この細胞と細胞のコミュニケーションをしている、ギャップ細胞が衰えることが原因であると言うことが分かってきました。

ギャップ結合が劣化する原因は?

なぜ、細胞を構成する重要な構造が壊れてしまうのでしょうか?

研究チームがマウスのギャップ結合複合体の構造を詳細に解析したところ、老化初期の内耳ではこの構造は分断され、若年期に比べて大きく減少していました。

さらにタンパク質量を測定すると老化初期の内耳では若年期の約40%に減少していました。

次に、ギャップ結合タンパク質の生化学的な特性を調べたところ、老化の影響でギャップ結合は脂質に取り囲まれたり共存するようになるという性質の変化があることがわかりました。

つまり、ギャップ結合タンパク質を安定化することができれば老人性の難聴も防ぐことができるかもしれません。

コネキシン26
コネキシン26・GJB2変異遺伝性難聴(コネキシン26遺伝子変異型難聴): コネキシン26は遺伝子GJB2(GAP JUNCTION PROTEIN, BETA-2)により合成され、内耳のギャップ結合を構成する主要タンパク質の一つ。最も高頻度に検出される遺伝性難聴の原因因子。 GJB2変異遺伝性難聴(コネキシン26遺伝子変異型難聴)は、我が国では遺伝性難聴の50%以上もの割合を占めるとされており、常染色体劣性と常染色体優性の遺伝形式を持つ感音性難聴。

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