Nooplというヒアリングデバイスがイノベーティブな理由
Noopleはアメリカで開発された新しいバックグラウンドノイズに対する解決策を提供するデバイスです。
NooplのCEOであるティム・トライン博士はEargoという耳穴に隠れる小型の補聴器デバイスメーカーでCTOを歴任したエンジニアで、現在Noopleを率いています。そして、彼の会社は2021年のHearing Technology InnovatorAwardsの国際審査員団によって「イノベーターオブザイヤー」に選ばれました。
iPhoneはAir Podというアップルの素晴らしいヒアリングデバイスと相性が良いことはご存知のとおりですが、このNoopleはiPhoneの底面にクリップで止めるマイクのようなデバイスであり、3つの指向性マイクから成り立っています。
AirPodに組み込まれたヘッドトラッキング技術と組み合わせ、このNoopleはバックグラウンドノイズを低減し、ユーザーの聞こえを補助することができます。
Noople開発者ティム・トライン博士とヒアリングデバイス
開発者であるティム・トライン博士はスターキー・Eargoなど長年補聴器業界に携わり、多くの補聴器を開発してきた技術者です。
学生時代は南のハーバード大学とも呼ばれるヴァンダービルト大学で修士号、ミネソタ大学で博士号を取得後、再びヴァンダービルト大学でアメリカの大手補聴器メーカーであるスターキー社と研究を行ったことをきっかけに製品開発に19年従事しました。
その後CTOとしてEargoに入社し、このEargoは「見えない補聴器」としてIPOに成功しています。
なぜNooplではAirPodsとiPhoneを組み合わせたのか?
この話をする前に、ティム・トライン博士が参画し、開発したEargoについて簡単に説明する必要があります。
Eargoは耳穴型補聴器の中でも特に小型の補聴器開発に成功し、外部からは見えないほど耳の奥に装着できるデバイスです。これまで、補聴器をユーザーが避けてきた大きな理由である「見た目」の問題を解決しています。
それではNoopleは何を解決しているのでしょうか?
最大の特徴はAirPodsを活用したデバイスであるということです。
通常、補聴器はその高機能な仕組みの特徴からそれ自体を耳に装用することが必要です。
しかし、Noopleはあくまでバックグラウンドノイズの低減に特化している製品です。
これは端的に言えば「健聴者でも便利になるデバイス」であり、軽度の難聴者にとっては補聴器を使う、または補聴器のような耳に装着するデバイスを使うより、シンプルでかつ見た目もよく、さらに高性能な便利グッズということです。
AppleはAirPod Proに指向性マイクを搭載しており、またこれによりS/N比15dBを実現しています。
信号成分中に含まれる雑音の量を表し、この値が大きいほど信号の品質や機材の性能がよいことを示します。
また、空間的な音声処理により音のする方向を的確に認識することができます。
このことは聞きたい方向を向くことでその方向の音をより聞きやすくする効果が期待できるのです。
結果的にNoopleは補聴器ではなくあくまでAirPodProの追加デバイスとして、軽度の難聴に対応することのできる製品となりました。そしてその価格は補聴器に比べて非常に安価で249ドル(2万5千円程度)に抑えることができました。
どのような人がNoopleのユーザーとなりうるのか?
AirPod Proを活用した製品であるということを繰り返し強調して説明してきましたが、このNoople、実は補聴器と組み合わせて使用することもできます。
補聴器をすでに活用しているユーザーであってもNoopleを手持ちのiPhoneに付け、連携することで、極めて指向性の高い、ノイズディダクション機能を使うことができます。
補聴器店に訪れる人の一番の不満は「うるさい」ということです。補聴器はノイズもひとつの音として拾ってしまうという弱点があります。これはノイズキャンセリングやAIが搭載された補聴器であっても人間の自然の耳と比べると、非常にノイズを大きくしてしまう特徴です。
アメリカでは難聴に悩む人は聴覚クリニックという「聞こえ」専門の病院で聴力検査を受け、適切な補聴器を使うことができるようトレーニングを受けた専門家とともにフィッティングを行います。
こうしたクリニックに訪れたとしても10%〜40%の人は治療をせずに帰ってしまうのです。
それは、補聴器を使う必要があるという現実を受け止めきれなかったり、予算の都合で補聴器を購入することができなかったりするためであります。こうしたユーザーに対してもNoopleは気持ちの良い解決策を提案するのです。
多くの難聴者は、補聴器を装用し始めるのは難聴に気づいてから7年から10年後になると言われています。この間にも着実に聴力は低下しており、周囲の人とのコミュニケーションはしづらくなり、自分に自信がなくなっていきます。
それから、多くは後期高齢者になってから補聴器を使い始めたとしても、すでに認知機能の低下や自分への自信の低下、周囲との関わり、社会との関わりが薄くなっている中で、聴覚を使う機会も減少し、補聴器をうまく使いこなすことは相当難しいことです。
すぐに対策をとることができれば、生涯における喜びや幸せの合計価値は間違いなく増えているはずでした。
こうした、悲しい事実が現実の世界では起こっているのです。Noopleはこうした潜在的なユーザーニーズを丁寧にすくい取っているソリューションと言えます。
結論:Noopleは全く新しい聞こえの体験を提案するデバイス
これまで、補聴器は「高価で、見た目が悪く、うるさいもの」でありました。
もちろん補聴器が高価になるのはデジタル補聴器の開発には小型化と高性能化が求められる用途であり、一般的な家電よりも遥かに研究開発コストがかかってしまうからです。
近年は新しいメーカーの参入も続いており、特に軽度難聴者向けのデバイスは医療機器としての補聴器ではなく、集音器やイヤフォンの延長として気軽に購入できるよう、安価でかつスマートフォンアプリにより自信で調整することのできる新しい市場を切り開いています。
しかし、その人にあった聞こえをどのように実現するかという問いに関しては、私達専門家や補聴器のヘビーユーザーの間でも意見が非常に分かれるところです。
聴力は技術的に考えられる以上に、人間的で精神的な状態にも影響を受けやすい感覚であると考えています。
日によって聞こえたり聞こえなかったり、人の声の声質によっても、補聴器の種類や機種によっても、それらの相性によっても大きく異なるということに関しては、多くの補聴器ユーザーの間でも共感することでしょう。
Noopleの新しいところは、軽度難聴や補聴器に少し関心がある人々にもAirPod Proを介して届けることのできるヒアリングエイドデバイスであり、中度難聴より重い難聴者に対しても補聴器を通して、Noopleの高いノイズキャンセリング機能を享受することができる点にあります。
Addressing the Hearing in Noise Problem: Interview with Dr. Tim Trine, CEO of Noopl https://hearinghealthmatters.org/thisweek/2021/hearing-noise-noopl-interview-trine/ @HearingHealthMより