なぜ補聴器を買ったのに聞こえないのか・うるさいのか?
ほとんどの補聴器が正しく調整されてないから
補聴器の専門医に持ち込まれた補聴器の99%が不適切
補聴器は単に「音を大きくする機械」ではありません。
難聴のタイプ、聞こえ方のタイプに合わせて周波数と音圧を個々人に合わせます。
そのため適切な調整なしではまったく使えないものになります。
他機関で購入した補聴器が「役に立たない」、持ち込まれた99%の補聴器が不適切な調整だった。
93%の症例で利得・出力が不足していることも判明した。
この例は大げさに聞こえるかもしれませんが、
聴覚障害・補聴器に詳しい専門家は口を揃えて、
正しい補聴器フィッティングができる専門家は少ないといいます。
では「なぜ使えない補聴器をあなたは手に入れてしまうのでしょうか」
その理由についてご説明します。
「聞こえる補聴器」を提供するのが難しい理由
認定補聴器技能者の技術レベルが低い・人数が少ない
先日の記事でもご紹介しましたが「認定補聴器技能者」という補聴器の業界資格があります。
https://ohmiminavi.co.jp/2019/07/17/hearing-aid/
この業界資格を取得するには最短でも5年かかり、毎年講習が義務付けられています。
私も以前受講したことがあります。
その内容は難聴、補聴器、音響学など関連する多岐にわたっており、
耳型のとり方など実務で必ず使う手技についても講習があります。
この資格を取得するには時間がかかる上に毎年教育を受ける必要があるので、
そう簡単なことではないと感じました。
しかし、そもそもこの資格を保有してなくても補聴器は販売できます。
そのため多くの補聴器販売店は資格取得者なしで、
補聴器を販売しているというのが実情なのです。
また、この資格はあくまで知識や技能が中心であり、
実際にお客さんに合わせてどのような処方、話し方をするかと言うところは、
その人の経験やスキルによって大きく変わります。
聴力はその他の感覚と同様、精神状態にも大きく左右されます。
できるだけ不安のない状態で聴力検査を行ったり、
難聴について丁寧に説明できるレベルというのはかなり熟練した経験がいります。
そのため、有資格者であっても必ずしも適切な対応ができるとは言い切れないのです。
補聴器の装用で100%回復するわけではないと説明してない
補聴器はベストなセッティングをしたとしても、
人間の正常な聴力に回復させることは難しいです。
それは、物理的な音の性質と音を脳で認知する機能の限界にあります。
- 音を大きくしても耳が耐えられる範囲が決まってる
- 最初の状態から改善することはできるが、100%回復させることはできない
- 脳の認知機能の低下を補うことはできない
多くの「補聴器が使えない」という悩みは補聴器に期待しすぎてしまうため起こります。
補聴器はあくまで耳の物理的な限界に合わせて、音を増幅したり調整する装置です。
その信号が耳から脳にはいったときにそれを「意味のあることば」として認識するには、
単に「音が聞こえる」というレベルより高解像な情報が必要です。
耳の限界で「ことばとして聞こえる」情報が届けられない場合もありますし、
そもそも脳が「ことば」を認識することができなくなっている場合もあります。
その原因を現代の医学でははっきりと見つけることができていないということも、
唯一の補装具である補聴器をつければ、
すぐ聞こえるようになると考えてしまう原因かもしれません
。
聴覚リハビリテーションの必要性を説明してない
補聴器装用はその場限りではなく継続したリハビリが必要と専門家はいいます。
聴覚リハビリテーションとは主に「言葉の聞き取りのためのトレーニング」のことです。
「ことばを聞き取るのにトレーニングが必要なのか」と疑問に思われるかもしれませんが、
音は単に「聞こえる」というだけでなく、「意味」があるわけです。
例えばサイレンは緊急事態であることをお知らせするという意味がありますし、
「あしたがっこうにいきます」という音は「明日、学校に行く」という意味を伝えています。
難聴になるとこの音がノイズなのか意味がある音なのかわかりにくくなります。
そして、意味のある音を聞き違えることも増えます。
それが、聴覚障害者の言う「音のかたち(明瞭度)」なのです。
https://ohmiminavi.co.jp/2018/05/05/%e8%81%b4%e8%a6%9a%e9%9a%9c%e5%ae%b3%e3%81%a8%e3%81%af/
難聴でも軽度難聴の場合は、単純に耳から入る音を増幅すれば聞こえる場合もあります。
イヤフォンで音楽を聞いていたときに小さい音だとわからないけれど、
音量を上げれば何言っているかわかるというようなシンプルな症状です。
しかし、重度難聴や何らかの認知機能の障害を併発している場合は、
「音のかたち」自体が歪んでしまっている可能性があります。
すると、その歪んだ少ない情報から如何にして「聞き取るか」が重要になります。
補聴器をつけたからと言って正常耳のようにちゃんと聞こえることはありません。
補聴器はあくまでサポートするだけなので、実は利用者が頑張らなければいけないのです。
当然医師や補聴器技師は音量を十分調整した補聴器を提供しますが、
ことば以外の色々な環境音や雑音が当然聞こえてくるため「うるさい」のです。
補聴器に慣れていない多くの利用者はこの不快感に慣れる前に装用を辞めます。
しかし、人間は慣れる生き物ですから徐々に不快感は減っていきます。
例えば、メガネの度を上げたときにはじめはクラクラするかもしれませんが、
視力的に適切な処方をしたらそのくらい見えて当然なわけです。
あとは利用者が慣れることで生活が送れるようになります。
しかし、利用者に「音が煩わしい」と言われると補聴器販売店はそのことを受け入れてしまいます。
すると食器の擦れる音や車の音が聞こえないように、
高音と低音を下げる調整を行い結果的に中音域だけ残した設定になります。
自分の聴力に関係なしに「音がうるさい」という理由で調整してしまうと、
結果的に「聞こえない補聴器」になってしまうのです。
それが冒頭紹介した「99%の補聴器は適切な調整がされていない」という話につながるのです。
中外医学社 (2016-10-25)
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