なぜ日本では補聴器普及率は増えないのか?その理由は○○にあった
日本の補聴器普及率は何%?
認知症と難聴の大きな関係性
日本の総人口に占める65歳以上の人口割合は27.7%です。
75歳以上人口も13.8%です。
高齢になると耳が遠くなる人が増えることは、
みなさんもなんとなく経験的に分かるかと思います。
実際に、70歳以上の高齢者では25dBの音が聞こえない高齢者は2人に1人です。
ささやき声や木の葉の触れる音が聞こえないということになります。
加齢による難聴の進行は自然に起こるものですが、
聞こえにくくなることは社会生活を少しずつ難しくします。
WHOは認知症のリスク要因として難聴を取り上げました。
難聴によって周囲の人との意思疎通が難しくなったり、
環境音等から刺激を受けることができなくなると、
脳の活動が低下する可能性が指摘されています。
日本の補聴器普及率は○%と先進国中最低レベル
しかし、そのような日本においても補聴器はあまり普及していません。
補聴器工業会の調べによれば日本の難聴者に対する、
補聴器普及率は14%でした。
これは英国の48%、フランスの41%、ドイツの37%より低く、
米国の30%という数字をも下回っています。
なぜ日本では補聴器が普及しないのか?
補聴器の販売価格の高さは最も大きな要因
補聴器というのは高いですよね。
一番安いものでも数万円はしますし、高いものは100万円を超えます。
日本で最も売れる補聴器の価格帯は片耳10万円から20万円未満となっています。
両耳で20万円から40万円となると、
流石に「高い」と感じる人も多いと思います。
補聴器は保険適用にはなりませんが、医療費控除を受けることはできます。
また聴覚障害者として認定される高度難聴者は原則1割負担で購入でできます。
こうした優遇は確かにありますが、
高齢者にとっては一時的なお金の流出は大きい負担になります。
そのため、補聴器を購入することに心理的なハードルがあるのです。
医療費控除については事前に意思の診察等が必要ですので、
こちらの記事をごらんください。
https://ohmiminavi.co.jp/2018/07/09/iryou_kouzyo/
認定補聴器技能者の知識・経験不足による低満足度
また、補聴器普及率が向上しない理由として、
使い続ける割合が低いのが原因という指摘もされています。
実は補聴器は買ったまま使えるものではありません。
よって「最適なフィッティングができていないため不快になる」
ということは少なくありません。
https://ohmiminavi.co.jp/2019/07/18/hearing-aid-2/
補聴器販売には認定補聴器技能者という業界資格があるものの、
比較的容易に取得できる資格であり、技能向上に貢献しているかはわかりません。
また「調整」というのは機械的に行える作業だけを指しません。
その人が使い続けられるように「聴覚リハビリ」をする、
そういう視点から接することが大切なのです。
https://ohmiminavi.co.jp/2019/03/26/hearing-aid-pro/#NG
多くの補聴器屋さんやメーカーは広告宣伝でこんなことを言います。
「補聴器をつければ聞こえるようになります」
しかし聴力が若い頃のように、健聴者のように戻ることはありません。
そのことは認めたくないですが、少しずつでも受け入れなければ、
補聴器を付けても聞こえるようにはならないのです。
そのためのお手伝いをするということが補聴器やさんには求められています。
補聴器工業会は販売員の公的資格が確立されていないことも理由としていますが、
公的資格にするかどうかというよりも、
技能に加えて心理学や認知心理学、医学的な知識を備えた人材を、
育成して専門家を育てることが大事ではないでしょうか。
マイナスイメージを払拭できないでいること
このマイナスイメージは「補聴器を付けている」という事実から生まれるもの、
「使いたくない」と思わせる経験をしたことから生まれるものがあります。
前者は見た目がわるいことや、
そもそも補聴器をつけている自分が恥ずかしいと思うことがあります。
後者は補聴器を一度買ったにもかかわらず、
使い続けることができずに諦めてしまったことがあります。
この両方のマイナスイメージが強い製品だということが、
普及率に影響していると考えられます。
補聴器業界の販売マーケティング戦略の不足
補聴器業界はこれまで販売マーケティング戦略を積極的に行ってきませんでした。
それは地域の医師との関係性が極めて強く、医師からの紹介ルートが強いのです。
これで補聴器を購入すると医師へのキックバックがあるため、
販売店側にも値引き販売をするという必要性が薄いと考えられます。
またこれと併用されるものに自治体の補装具支援制度があります。
指定された補聴器については自治体が窓口となり、
国が補聴器の価格の9割を負担してくれます。
そのため、値引き等はしなくても指定補聴器であれば販売できたのです。
このような業界構造が販売ルートの主な経路となっていたために、
補聴器の利用者に対してしっかりと向き合わずとも商売が成り立ちました。
参考
補聴器、使用率低迷の日本 普及のカギは?(2018/3/14)日本経済新聞
参考
未だ満たされない、眠れる巨大市場- 補聴器業界の現状とその理由 -アドフォックス
補聴器を使わない理由
補聴器の対象者による補聴器を使わない理由
シバントスの調査によると、補聴器を使わない理由の調査結果では、
「わずらわしい」(42%)「装用しても元の聞こえに戻らない」(39%)
「補聴器は騒音下では役に立たない」(26%)といった、
否定的な意見が多数を占めていたと言います。
「補聴器がわずらわしい」というのはどういうことなのでしょうか。
「物理的に補聴器自体を付けることがわずらわしい」
私はこういう意味ではないと考えています。
眼鏡を「わずらわしい」という人はいるでしょうか。
20~30グラムの装置を顔に付けていても、
煩わしいと思う人は殆どいません。
補聴器は耳の後ろに付けたり耳の中に付けるものですので、
イヤフォンに慣れている人にとっては決してわずらわしくはなりません。
おそらく、この「わずらわしい」という解答には、
「聞こえるようにならないのにあえて付ける意味がない」
という趣旨をふくんでいるのではないでしょうか。
結局の所、補聴器を十分に使いこなすことができずに、
生活の質を高める装置として貢献していないのです。
これを裏付ける証拠もあります。
諸外国の補聴器ユーザーと比べても満足度が低い
先程の調査では補聴器工業会の調べにより、
世界の補聴器を持つ人に使い心地を聞いています。
その結果日本では「大変満足」「満足」「やや満足」の合計は38%で、
英仏独の74~82%と比べ、満足度の低さも目立ったと指摘されています。
補聴器は基本的に世界中どこでも同じメーカーがあります。
シバントスやGNリサウンドなどなど大手メーカーがあります。
にも関わらず満足度は大きな開きがあるのはなぜでしょうか。
これは明らかに「日本の補聴器販売店のサービスが悪いから」です。
サービスというのは単にお客様を持ち上げることではなく、
きちんと説明をした上で補聴器を使う意欲も引き出すことです。
こうした補聴器の良さを伝えられずに、
単にオージオグラムに合わせた調整をするだけで終わっては意味がありません。
参考
なぜ日本で補聴器が普及しない? シバントスが市場拡大へ(2017/5/22)モノイスト
諸外国の補聴器の活用法
福祉国家では補聴器の重要性が周知されている
シバントスの調査において補聴器普及率の高い国は、
デンマーク・ノルウェー・イギリスとヨーロッパ(北欧)でした。
海外では50歳代や60歳代から補聴器利用をするのにに対して、
日本では70歳代や80歳代にようやく装用を開始します。
耳が遠くなったということを自覚することは難しく、
また、「お年寄りは耳が遠いもの」と開き直るところがあります。
しかし、難聴は孤立を増大させるため認知症の原因となったり、
被害妄想やうつといった孤独による病気を生み出します。
少しでも情報が少なくなり始めた時期からしっかりと補聴をすることで、
聴神経を活用し、脳に情報が届くようにしなければ、
こうした病気の原因となる可能性があるのです。
軽度難聴者への補聴器支援が重要
また、英国では国が指定する製品を、
難聴の程度にかかわらず無償で提供する仕組みがあります。
このように先天性・後天性問わず軽度難聴者に対して、
補聴器の装用を勧めることで難聴を原因とする疾患を防いだり、
仕事や家族生活を楽しむというQOLを増やすことができます。
参考
補聴器はなぜ高いのか?業界構造に潜んだ矛盾と参入商機(2007/8/1)J News
補聴器業界がすべき取り組み
補聴器の機能が増えて便利になってもユーザーは満足しない
ユーザーに価値を届けるために現在の状況は必ずしもよくありません。
補聴器製造業界はこう考えがちです。
「ユーザーの求める製品がなかった。大きくて不快、きこえに諦めがある」
すると「新製品開発」「小型化」「騒音抑制装置」という機能を増やします。
しかし、実際ユーザーが求めているのは機能ではなく、
生活の質を向上させるような「役に立つ補聴器」です。
ユーザーヒアリングなどを通して新しい機能を付けるのは、
決して悪いことではないのですがユーザーが求めているものではない可能性があります。
病院との癒着は補聴器ユーザーの利益にならない
補聴器の購入ルートは病院を介するものがとても多いです。
病院と補聴器業界の癒着は長年問題視されていますが、
この構造がある限りはなかなか多くの人に本当に良い補聴器は届かないかもしれません。
一方で今では「家族に勧められて」「友人が使っていたから」という理由、
「補聴器がなんとなく気になって」ということで来店するひともいます。
こうしたユーザーは補聴器とはなにかというところからわからないので、
しっかりと補聴器のできることとできないことを説明した上で、
様々な日常生活上の悩みに答えられるような提案と心理的な支援をする必要があります。
すると補聴器販売店の技能向上とユーザー理解は必然的に必要です。
補聴器に関する正しい情報を提供しつつ、
本当にユーザーのためになる補聴器販売を目指したところに、
日本で補聴器を求めているユーザーへのアプローチができるでしょう。